災害時に起きる「正常性バイアス」と「同調性バイアス」のリスク

「正常性バイアス」とは、異常なことが起きているにもかかわらず「大したことじゃない」と落ち着こうとする心の安定機能のようなもの。
日常生活では、不安や心配を減らす役割がありますが、災害時では逃げ遅れなどの危険に巻き込まれる原因になります。

「同調性バイアス」とは、集団の中にいるとつい他人と同じ行動をとってしまう心理で、日常生活では協調性につながります。
しかし、災害時には周囲の人の様子をうかがっているうちに避難が遅れる原因になります。

今回は、災害時に正常性バイアス・同調性バイアスが働くことのリスクについて説明します。

正常性バイアスのリスク

正常性バイアス」とは、予期してない出来事や目の前の危険に対し「自分なら大丈夫」「まさかそんな大災害なわけがない」という先入観によって、危険ではなく正常なことだと落ち着こうとする心の安定機能のようなもの。
正常性バイアスは、過度なストレスでも平穏に過ごしていくことができるよう、人間にもともと備わっているものです。
正常性バイアスは無意識レベルでも働き、私たちが安定した気持ちで日常生活を送るためには、必要な心の働きですが、
災害時に危険が迫っているにもかかわらず、正常性バイアスの影響で危険な状況と認識できないことがあります。
日常生活では不安や心配を減らしてくれる役割を持ちますが、災害発生時には避難を遅らせる原因になってしまいます。

同調性バイアスのリスク

「同調性バイアス」とは、集団の中にいると、つい他者と同じ行動をとってしまう心の働きで、災害が発生しているにもかかわらず、「みんなが逃げていないから大丈夫だろう」と周囲の人の行動に合わせてしまうこと。
日本人は特にこの働きが強いと考えられており、本来であれば一目散に逃げるべき状況に置かれても、「誰も逃げてないから大丈夫だろう」と周りと同じ逃げない選択をする人が圧倒的に多いとされています。
災害発生時に周囲がどんな行動をしているか様子をうかがっている間に避難を遅らせる危険性が大いにあります。
反対に周囲の中で率先して避難する人がいれば、より多くの人を避難に導くことも可能です。

正常性バイアスに勝った「釜石の奇跡」

東日本大震災(3.11)の発生直後、釜石東中学校の生徒たちはすぐに学校を飛び出し、高台をめがけて走りました。
近隣の鵜住居小学校の児童や先生たちは、最初は校舎の3階に避難しようとしていましたが、「3階よりも高い津波が来たら大丈夫?」という心配の声と、釜石東中学校の避難する生徒たちの様子を見て、すぐに校舎を駆け下り、あとに続きました。
避難先指定の施設にたどり着き、脇の崖が崩れかけているのと、津波が家々を壊している光景を見た生徒が「ここにいては危険だ!」と先導し、さらに上の高台に避難をしました。
高台に着いたとき、背後で巨大な津波が学校と思い出の町を飲み込んでいきました。
この「釜石の奇跡」は、学生が「あらかじめ指定された避難場所が安全である」という先入観に引っ張られることなく、冷静に状況を判断し、安全な場所に避難した、正常性バイアスに打ち勝った事例です。
そして、その学生の行動を見た人々にも事態の深刻さが伝わり、その場にいた全員が避難行動をしたことで、多くの人の命が救われました。

災害時は率先して避難を呼びかける

災害発生後に誰も避難しようとしなければ、正常性バイアスや同調バイアスによって「きっと大したことない」「自分だけ逃げるのは大げさ」などといった認識が広がり、結果的に多くの人が被害に巻き込まれてしまう恐れがあります。
そんな状況に陥らず、災害が発生した際は、率先して避難行動を起こし、周囲にも避難を呼びかけるようにしましょう。
率先して避難を呼びかける人がいれば、周囲の人々に事の重大さが伝わり、早期避難につながります。

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